
不育症の治療について
不育症とは

不育症とは、妊娠は成立するものの、流産や死産を2回以上繰り返してしまう状態を指します。特に3回以上続く場合は「習慣流産」とも呼ばれ、医学的な検査や治療の対象となります。
原因は一つではなく、いくつかの要因が関係していると考えられています。たとえば、夫婦いずれかの染色体の異常や、子宮の形の先天的な異常により、受精卵が着床しにくかったり、妊娠の継続が難しくなることがあります。
また、黄体機能不全・甲状腺機能の異常といったホルモンの乱れ、あるいは血液が固まりやすい体質(凝固異常)が関わる場合もあります。さらに、妊娠年齢の上昇も流産リスクを高める要因の一つです。
このように、不育症は複数の要因が複雑に関係するため、総合的な検査と一人ひとりに合わせた治療が重要となります。
知っておきたい流産のこと
流産は特別なことではなく、誰にでも起こりうるものです。頻度は年齢によっても異なりますが、全体では約15%とされ、母体に特別な異常がなくても、約7回に1回は流産が起こる計算になります。
また、妊娠した女性のおよそ4割が一度は流産を経験するといわれています。しかし、多くの方はその経験を周囲に話すことがないため、診断を受けたときに「どうして自分だけが…」と、強い孤独感や不安を抱えてしまうことも少なくありません。

自然流産の原因
自然流産の原因で最も多いのは、赤ちゃんの染色体異常による自然淘汰です。この場合、医療が介入しても避けられないため、「無理をしたせいで流産してしまったのでは」などとご自身を責める必要はありません。いっぽうで、原因によっては防ぐことができる流産や、医療の力で赤ちゃんを守れる場合もあります。
当院では、流産を経験された患者さんとご家族の深い悲しみに寄り添いながら、気持ちを少しずつ整理し、また前を向けるお手伝いを大切にしています。
もし流産と診断されたら

とてもつらいことですが、万が一流産と診断された場合には、そのまま自然に経過を待つのではなく、医療的な処置(手術)が必要になることがあります。子宮内に流産組織が残ったままだと、感染や出血、強い腹痛を引き起こすリスクがあり、子宮内膜の回復が遅れて次の妊娠に影響する可能性もあります。
当院では、体への負担が少ない安全な吸引手術を行っています。また、手術の前に受診していただくことで、赤ちゃんの胎児組織を用いた遺伝子(染色体)の検査を行うことが可能です。この検査によって、流産の原因が赤ちゃん側の染色体異常によるものかどうかを確認でき、今後の妊娠への備えや治療方針を考えるうえで大切な手がかりとなります。
赤ちゃんから得られる情報は、ご夫婦にとっても医師にとっても非常に重要です。私たちは、その深い悲しみに寄り添いながら、今できることを一緒に考え、次の一歩を支えてまいります。
不育症と不妊症の違い
不妊症と不育症は、いずれも妊娠に関わる問題ですが、その意味するところは大きく異なります。
「不妊症」とは、妊娠を望んでいてもなかなか妊娠に至らない状態を指します。近年では広く知られるようになり、検査や治療を受ける方も増えています。一方で「不育症」は、妊娠自体は成立するものの、流産や死産を繰り返してしまう状態をいいます。不妊症と比べるとまだ一般的な認知度は低く、妊娠できたにもかかわらず妊娠を継続できないという大きな不安や喪失感に直面する方が少なくありません。
不妊症と不育症の違いは、「妊娠が成立するかどうか」と「妊娠を継続できるかどうか」にあります。不妊症が妊娠成立の問題であるのに対し、不育症は妊娠継続の課題が中心となります。
いずれも医学的な原因が隠れていることが多く、適切な検査や治療によって乗り越えられる可能性があります。「繰り返す流産は体質のせい」「運が悪かっただけ」と思い込まず、ぜひ一度ご相談ください。
不育症の主な原因
妊娠初期に起こる流産の多くは、赤ちゃん側の染色体異常による偶発的なものと考えられています。受精卵の染色体に不規則な変化が生じることで胎児が育たず、自然に流産となるケースです。このタイプの流産は年齢とともに頻度が高まることが知られており、予防や治療が難しいのが現状です。
一方で、流産を繰り返す背景に「リスク因子」が隠れている場合もあります。そのため、不育症が疑われるときは、原因を明らかにするための検査が大切です。

主なリスク因子の例
- ■子宮の形態異常(子宮奇形など)
- 着床や胎児の成長に影響することがあります。
- ■甲状腺の機能異常
- ホルモンバランスの乱れが妊娠の継続に影響することがあります。
- ■血液凝固因子の異常(血栓ができやすい体質)
- 胎盤の血流に影響することがあります。
- ■夫婦いずれかの染色体異常
- 均衡型転座などが含まれます。
ただし、これらのリスク因子があるからといって、必ず流産や死産に至るわけではありません。実際には、不育症と診断された方の多くが、その後無事にご出産に至っています。
過去に検査を受けたことがある方は、結果をご持参いただけると診療がスムーズです。まずは不育症の原因を正確に知ることから、一歩ずつ進めていきましょう。
不育症の治療について
不育症の治療は、流産を繰り返す原因に合わせて行うことが基本です。当院では、不育因子を調べる検査を行い、その結果に応じて適切な治療を組み合わせて実施しています。
抗凝固療法(ヘパリン注射)

血液が固まりやすい体質の方は、胎盤の血流が妨げられて妊娠が続きにくくなることがあります。そのため、妊娠がわかった段階で血液をさらさらにする薬「ヘパリン」の注射を早めに開始します。
薬物療法(アスピリン・ステロイド・漢方など)

免疫のバランスが崩れていたり、ホルモンや血液の異常がある場合には、アスピリンやステロイド、漢方薬(柴苓湯など)を用いて妊娠を維持しやすい環境を整えます。流産を防ぐための体づくりとして、多くの方に効果が期待されています。
γグロブリン注射(免疫療法)
免疫の働きが強すぎることで流産が起きている場合には、γ(ガンマ)グロブリンという特殊なたんぱく質を注射して免疫を穏やかにコントロールします。強い免疫反応が見られた方に選択される治療です。
夫リンパ球免疫療法
原因が明らかでない流産が続く場合に行う治療です。ご主人のリンパ球を少量採取し、奥さまの腕に注射することで免疫のバランスを整えます。
ご主人から血液を採り、リンパ球だけを分離して、3週間おきに4回注射。妊娠成立後に1回追加注射します。
この治療は全国的にも限られた医療機関でしか受けられず、当院には湘南地域だけでなく関東各地から患者さまが来院されています。
- ■治療の効果
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夫リンパ球免疫療法を受けた方のうち、原因不明の習慣流産と診断された方でも、約90%がその後妊娠を継続できたという報告があります。一方、この治療を行わなかった場合には、妊娠を継続できた割合は約37%にとどまったというデータもあります。
この結果から、適切な患者さまに夫リンパ球免疫療法を行うことで、妊娠継続率が大きく改善する可能性が示されています。
- ■注意点と安全性への配慮
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この治療ではご主人の血液を使用するため、事前に感染症の有無をしっかり確認する検査が必要です。また、注射に伴うアレルギー反応や副作用を防ぐため、医師が慎重に体調を確認しながら進めていきます。
当院では、患者さまが安心して治療を受けられるよう、安全性を第一に配慮した対応を行っております。
不育症の治療は、妊娠の継続を支えるだけでなく、「妊娠できたのに、なぜ…」という思いに寄り添い、心と体の両方をサポートすることが大切です。原因が明らかになっている場合には治療によって妊娠継続の可能性を高めることができますし、原因がはっきりしない場合でも、希望を持って前に進むための方法があります。
不安や疑問があれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。
診療時間
診療時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 | 祝 |
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