男性の不妊症について

男性不妊の原因のうち、約90%は精子をつくる働きに障害がある「造精機能障害」といわれています。造精機能障害には、原因がはっきりしているケースと、明確な原因が見つからないケースの両方があります。
造精機能障害(原因あり)
身体的な要因がはっきりしているケースです。
- ・精索静脈瘤
- ・Klinefelter(クラインフェルター)症候群やその他の染色体異常
- ・両側の停留精巣(精巣が正しく降りていない状態)
- ・悪性腫瘍の手術後
- ・耳下腺炎(おたふくかぜ)による精巣炎…など
造精機能障害(原因不明)
全体の約半数は、明確な原因が特定できないケースです。ただし、次のような要因が関係していると考えられています。
- ・ストレスや過度の飲酒
- ・喫煙習慣
- ・肥満・糖尿病などの生活習慣病
- ・一部の薬剤や持病の影響
- ・精巣への外傷や炎症…など
非造精機能障害(約10%)
精子の通り道や射精の仕組みに障害があるケースです。
- ・精管や精嚢の閉塞性障害
- ・勃起不全、射精障害などの性機能障害
このように男性不妊にはさまざまな原因があり、その多くは造精機能障害によるものです。原因が特定できない場合でも、治療によって妊娠の可能性が高まるケースは少なくありません。少しでも不安を感じる方は、早めに検査やご相談をされることをおすすめします。
主な検査内容
精液検査
まずは精液の状態を調べる基本検査を行います。精子の数・動き・形などを評価し、不妊の原因を把握する大切なステップです。
必要に応じた追加検査
精液検査の結果によっては、さらに詳しく調べるために追加検査を行います。
- ・ホルモン検査(男性ホルモンなどの分泌の状況を確認)
- ・超音波検査(精索静脈瘤の有無をチェック)
- ・染色体検査(異常が疑われる場合に実施)
治療の選択
検査結果をもとに、原因や状態に合わせて適切な治療方針を決定します。
- ・薬物療法:ホルモンバランスの調整や精子の質の改善
- ・外科的手術:精索静脈瘤の修復など
- ・生殖補助医療(ART):人工授精、体外受精、顕微授精…など
精液検査でわかる主な原因と特徴
精液検査の結果は、WHOの最新ガイドライン(2020年版)に基づいて評価されます。これにより、不妊の原因を特定するための大切な手がかりを得ることができます。
乏精子症(ぼうせいししょう)
精子の濃度が15×10⁶/mL以下の状態を指します。精液中に精子は存在しますが数が少なく、軽度であれば自然妊娠が可能な場合もあります。重度になると受精が難しく、顕微授精が必要になることもあります。
精子無力症(せいしむりょくしょう)
総運動率が40%以下、または前進運動精子が32%未満の場合を指します。精子の数は正常でも、動きが弱いため受精に至りにくくなります。症状が重い場合は顕微授精を行うケースがあります。
精子奇形症(せいしきけいしょう)
正常な形態の精子が4%以下の状態です。精液中にはもともと奇形精子が多く含まれていますが、正常形態精子が5%未満では受精能力が低く、顕微授精が検討されることがあります。
無精子症(むせいししょう)
射出された精液中に精子が全く認められない状態です。男性不妊の中でも重度の症状で、精巣で精子がつくられていない場合や、精子の通り道が塞がっている場合があります。追加の検査や外科的治療が必要になることもあります。
これらの精液所見は治療方針や妊娠へのステップを決める重要な指標です。ご不安な点があれば、医師がわかりやすく丁寧にご説明しますので、安心してご相談ください。
男性不妊に対する主な治療方法
薬物療法

ホルモンバランスを整えたり、精子の質を改善することを目的とした治療です。男性ホルモンの分泌が不足している場合や、精子の運動率・濃度が低下しているケースで行われます。
ビタミン製剤やホルモン剤を服用することで、精子をつくる力を高め、妊娠の可能性をサポートする効果が期待できます。
外科的手術

明確な身体的な原因がある場合に行う治療です。代表的なものに「精索静脈瘤の修復手術」があります。精索静脈瘤とは、精巣の周囲にある静脈がこぶ状に膨らむ状態で、精子の質を低下させる原因の一つとされています。
顕微鏡を用いた体への負担が少ない手術により、静脈の逆流を防ぐことで、精子の状態が改善する可能性があります。
生殖補助医療(ART)
自然妊娠が難しい場合に行う高度な治療法です。
ご夫婦の状態に応じて、人工授精(IUI)、体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)などの方法から選択されます。医師が検査結果やお身体の状況を踏まえて適切な方法をご提案し、一歩ずつ妊娠に近づけるようサポートしていきます。
※体外受精(IVF)、顕微授精(ICSI)は、藤沢本院での治療を行っております。分院での実施はございませんが、ご希望やご不安に合わせて丁寧にご案内いたしますので、どうぞ安心してご相談ください。
藤沢本院HPはこちらから→
- ■人工授精(AIH)
採取した精子を洗浄・濃縮し、排卵のタイミングに合わせて子宮内に注入する方法です。卵管を通して自然な受精を促すため、体への負担が比較的少なく、自然妊娠に近い形で行える治療です。
- ■体外受精(IVF)
-
排卵誘発によって採取した卵子と精子を体外で受精させ、その後、受精卵を子宮に戻す方法です。受精の過程を体外で管理できるため、卵管の異常や重度の男性不妊など、自然妊娠が難しいケースにも対応できる治療法です。
- ■顕微授精(ICSI)
-
1つの卵子に対し1つの精子を顕微鏡下で直接注入する方法です。精子の数が極端に少ない、あるいは運動率が著しく低いなど、重度の男性不妊に対して有効とされています。
いずれの方法も、ご夫婦それぞれの状態やご希望を踏まえて慎重に検討し、最適な治療法をご提案いたします。
治療の流れや内容についても、医師がわかりやすく丁寧にご説明いたしますので、安心してご相談ください。
酸化ストレスと男性不妊の関係
酸化ストレスとはどんな状態?

私たちの体の中では、日常生活の中で「活性酸素」と呼ばれる物質がつくられています。活性酸素には、体を守る大切な役割もありますが、過剰に増えすぎると細胞を傷つけてしまうことがあります。
このように、活性酸素が過剰になり体に悪影響を及ぼしている状態を「酸化ストレス」といいます。
精子に及ぶ悪影響について
酸化ストレスは、精子の運動率を低下させたり、精子内部のDNAを傷つけたりすることが明らかになっています。その結果、受精しにくくなったり、妊娠しても流産のリスクが高まるなど、妊娠の成立に大きく影響を及ぼす可能性があります。
つまり、酸化ストレスは見た目では判断できない「精子の質」に悪影響を与える重要な要因のひとつといえます。
酸化ストレスを高める要因
酸化ストレスは、生活習慣や環境によって高まりやすくなります。
- ・喫煙や過度の飲酒
- ・睡眠不足や強いストレス
- ・通気性の悪い下着や長時間の座位による体温上昇
- ・肥満や運動不足
これらの要因が重なると、気づかないうちに精子がダメージを受け、妊娠のしやすさに影響を及ぼすことがあります。
検査で確認できること
通常の精液検査だけでは、酸化ストレスの影響までは確認できません。そこで近年では、精子の質をさらに詳しく調べるための検査も行われています。
- ・ORP検査:酸化ストレスの度合いを数値化して評価する検査
- ・DFI検査:精子のDNAがどの程度損傷しているかを調べる検査
これらの検査によって、精子の隠れたダメージを把握し、より適切な治療方針を立てることが可能になります。
酸化ストレスを抑えるためにできること
酸化ストレスを抑えるためには、まず日常生活の見直しが大切です。
- ・バランスの取れた食事
- ・十分な睡眠
- ・禁煙・節酒
- ・ストレスをためない生活
- ・通気性の良い服装や適度な運動
さらに、ビタミンC・E、亜鉛、コエンザイムQ10などの抗酸化成分を意識的に摂ることで、精子へのダメージを減らす効果が期待できます。また、「精索静脈瘤」という静脈の異常がある場合は、手術によって酸化ストレスが改善し、精子の質が良くなることもあります。
酸化ストレスは目に見えないものですが、男性不妊に深く関わる重要な要因のひとつです。生活習慣の改善や必要な検査・治療を組み合わせることで、妊娠の可能性を高めることにつながります。
「検査では異常がなかったのに妊娠が難しい」という方も、酸化ストレスの影響を見直してみることをおすすめします。
診療時間
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